2019.05.20 Monday

社会的地位の高い人は逮捕されにくいのか

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    池袋で母子が亡くなられた自動車事故に関し、被疑者(運転者)が逮捕されないことが話題になっています。

    被疑者が経産省元幹部や著名企業の取締役を務め叙勲までされた社会的地位が高い人物であり、そのために逮捕されないのではないか、そうだとすればおかしいという意見があるのです。

    被疑者が退院後に逮捕されるだろうとの見方もありましたが、ここ数日の報道を見るとそれも違うようです。

     

    社会的地位が高いと逮捕されにくいのか、という点はイエスと言わざるを得ません。

    というのも、逮捕や勾留は罪証隠滅のおそれがあることや逃亡のおそれがあること等が条件(要件)となりますが、社会的地位が高ければ逃亡する可能性は低くなるからです。地位を捨て、持ち家を捨て、家族を捨ててまで逃げるとは考えにくいということです。

     

    他方、社会的地位が高くない人の場合、身軽なので罪を免れるために逃亡する危険があるとみられがちです。いわゆるネットカフェ難民やホームレスの人など住居不定と見なされる人は、それだけで逮捕・勾留されてしまいます。

     

    このような理由から、一般論として、同じ罪を犯しても社会的地位が高い人の方が逮捕・勾留はされにくいといえます。

     

    もっとも、個人的な意見としては、今回の件で逮捕されないのは単に高齢だからだと思います。87歳という高齢なので逃亡する気力も体力もないだろうし、現実問題として逃亡する可能性はないということでしょう。

     

    とはいえ、罪証隠滅のおそれはどうなのかという問題は残ります。

    自動車運転過失致死傷事件は過失犯であり、一般論として罪証隠滅のおそれが高い類型の犯罪ではありません。逮捕・勾留せずに捜査を進めるケースが非常に多いです。

    しかし、今回の事件は落ち度のない2人の尊い命が奪われた重大事件であることはもとより、報道によれば赤信号を無視し、制限速度を大きく超えた(制御困難な)高速度で通行していた事案であり、客観的な状況を考えるならば危険運転致死傷罪に該当する可能性があり得る事案なのです。

     

    赤信号無視も高速度運転も過失であれば危険運転には該当しませんが、報道によれば今回は直前にも別の事故を起こしており、その事故から逃げる(ひき逃げする)ために、わざと赤信号無視をしたり高速度運転をしたという可能性も、客観的な状況からは考え得るはずです。しかも、妻が同乗していたというのですから、事故を起こすまでの運転経緯や事故直後の被疑者の言動等に関して妻と口裏合わせをするおそれも考えられます。

     

    このような状況からすると、今回は罪証隠滅のおそれを理由に被疑者が逮捕されてもおかしくない事案だったと言えると思います。むろん、罪証隠滅のおそれに社会的地位云々は基本的に関係ありません。

     

    実際に逮捕しなかったということは、警察は、事故の状況やドライブレコーダーの画像や音声(被疑者や妻の音声が入っていたといいます)などから、先に述べたような危険運転の可能性はなく、アクセルブレーキの踏み間違いの過失事案であると判断したということなのでしょう。あるいはドライブレコーダーを押収しているから、妻とは口裏合わせはできないだろうという罪証隠滅のおそれがないという判断かもしれません。

     

    日産元会長が逮捕・勾留されたことが批判される一方、今回の被疑者が逮捕されないことが批判されていることを見ると、日本社会の逮捕・勾留に関する考え方・感覚は非常に複雑なものであると感じます。我々法律家の意見も人によってバラバラです。

     

    ただ一点言えるのは、逮捕・勾留は処罰ではありませんし、裁判での刑の重さと(関係はしますが)直結はしないということです。

    在宅捜査であっても、起訴されて実刑となる場合はいくらでもあります。

    そして、刑罰の軽重を決める上では、社会的地位の高さは関係ないはずです。

    2019.04.12 Friday

    パスポートの押収について

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      日産元会長の再逮捕に伴い、捜索差押がなされたと報じられています。

      その中でも、妻のパスポートを押収したという点について、問題がなかったか危惧を抱いています。

       

      パスポートは、それがないと本来自由なはずの出国できなくなります。

      ですからその押収は、出国の自由の侵害として許されないのではないかと思われるのです。

       

      一般論として、外国人の被疑者を逮捕すると同時にそのパスポートを押収することはあります。

      この場合、身柄拘束を受けている間は当然出国できませんから、釈放時にしっかり返却(還付)されるのであれば、実害はほぼありません。

      これに対し、被疑者ではなく逮捕もされない人物のパスポートを押収する場合は、自由な出国を阻害するという実害が生じます。

       

      他方、偽造パスポートの事案や、その人の人定事項(正しい氏名や生年月日など)が問題になる事案、密輸事案等で過去にどの国に行ったのかが問題になる事案でもなければ、パスポートの証拠価値は乏しく、押収する必要性は高くはありません。

      仮にそのような場合でも、偽造パスポートの事案でもなければ、いったん預かってコピーを作成して直ちに返却すれば目的は達成でき、現物を保管(領置)し続ける必要はないと思われます。

       

      元会長の妻に関しては偽造パスポートの嫌疑はまずないので、押収する必要があったのか疑問を抱かざるを得ません。

       

      とはいえ、元会長の妻は、驚くべきことにもう一つパスポートを持っていたようで(押収されたのはレバノンのパスポートで、別にアメリカのパスポートを所持していたと報じられています)、フランスに出国してしまっています。

       

      可能性は低いと思いますが、仮に検察がこのことを知った上で、あえてレバノンのパスポートだけを押収しアメリカのパスポートを押収しなかったのであれば、実質的には出国の自由の侵害にあたらないのかもしれません。

      しかし、そのような事情でもない限り、このパスポートを押収する必要がどれほどあったのかは疑問であり、出国の自由の侵害として問題になる可能性が高いと思います。

      2019.04.09 Tuesday

      日産元会長再逮捕について

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        保釈されていた日産元会長が再逮捕され、この事件が再び話題を集めています。

         

        保釈後に再逮捕されることは珍しく、「釈放されたのにまた逮捕というのは理不尽ではないか」と思うのが普通の感覚かもしれません。

         

        ただ、法律的にみると、保釈や逮捕・勾留は事件ごとに判断するので、ある事件で保釈となっても、余罪の嫌疑があり、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるならば、その余罪で逮捕・勾留されることは十分にあり得ます(なお、保釈の判断の際には、余罪の罪証隠滅のおそれについては考慮されません)。

         

        罪証隠滅の典型は関係者との口裏合わせです。

        事件が違い、関係者も異なるのであれば、保釈された事件では口裏合わせのおそれが低くても、余罪では口裏合わせのおそれが高い、ということはあります。

        その場合、余罪の嫌疑が十分ならば、逮捕や勾留の要件は満たされることになるのです。

         

        今回は、インターネットの利用が制限されるなど保釈条件が厳しかったようで、普通に生活している人に比べれば罪証隠滅が難しい状況だったと思います。

        しかし、事件は今までの事件と全く別であり、関係者も全く異なりますし、ましてや妻や息子の名前も出てきているようですから、口裏合わせのおそれがあると判断されたのはやむを得ないと思います。

         

        保釈中に、逮捕するのは異例だという報道もありましたが、それは確かにそのとおりかもしれません。

        ただ、それは単にそのような事例が少ないということに過ぎず、認められにくいなどという意味ではないと思います。

         

        保釈中に逮捕される場合としては、〕昇畫楮困続いている状態で保釈され、その後余罪の容疑が固まって逮捕される場合、∧歇瓩気譴晋紊僕昇瓩あることが新たに発覚し、その捜査の結果逮捕される場合、J歇畸罎某靴燭僻蛤瓩忙蠅訃豺隋△3パターンがあると思います。

        △呂修發修皀譽▲院璽垢任垢掘↓もさすがに保釈中に犯罪に及ぶ人はあまりいません。

        今回は△筬ではなく,世隼廚い泙垢、,乏催する場合は、多くの場合は保釈請求しません。

        せっかく保釈金を積んで身柄解放されても、また逮捕されれば無駄になってしまうのですから(後で戻っては来ますが)、どうせ保釈請求するなら余罪の捜査が終わってからにしたほうが合理的ということになるのです。

        被告人が保釈請求してくれと言っても、弁護人としては「余罪捜査が終わってからにしましょう」と説得する場合がほとんどだと思います。

         

        逆に、余罪捜査が続いているのに保釈請求するならば、余罪で逮捕されてしまうことを覚悟の上で敢えて請求する、ということになります。

         

        元会長の弁護士もそのことは当然分かっていたでしょうし、元会長に説明していたはずですから、再逮捕はある程度覚悟していたのだろうと個人的には思っています。

        こんなに早いとは思わなかったとか、あの件の捜査はうまくいかないと思っていたのに、という意味で予想外ということはあったかもしれませんが。

         

        保釈中の再逮捕については、法制度の異なる外国から様々な批判があるかもしれませんが、日本の刑事訴訟法においては、問題がありません。逮捕状が発付され、勾留が認められ、勾留の不服申し立て(準抗告)も棄却されているのは、そのことを端的に表しています。

         

        今回問題となり得るのは、それよりも、再逮捕と同時に行われた捜索差押など、付随する手続ではないかと思います(次回に続く)。

        2019.03.14 Thursday

        麻薬取締部(いわゆるマトリ)

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          関東信越厚生局麻薬取締部により、俳優・ミュージシャンのピエール瀧氏がコカイン(使用)施用の容疑で逮捕されたとのニュースが駆け巡っています。

           

          この麻薬取締部は、いわゆるマトリと呼ばれる組織で、警察ではなく厚生労働省に属します。

          所属する麻薬取締官も警察官ではありません。

          留置場所が湾岸警察署なのでややこしいのですが、単に場所を借りただけのことだと思います。

           

          違法薬物事件の捜査はマトリだけでなく警察も行っています。

          まれに共同捜査することもあるようですが、多くの事件では別々に捜査し情報共有もあまりなされていないと思います。

          よく言うタテ割り行政の世界です。

           

          違法薬物事件、とくに(売人でなく)使用者の摘発は、多くの場合職務質問をきっかけにします。

          違法薬物を使用している人は、薬物が効いておかしな行動を取ってしまったり、体内に薬物が残っているのを意識するあまり警察官を見かけて普通ではない反応をしてしまうことがあります。

          その結果、警察官に職務質問され、違法薬物の所持や使用が発覚してしまうのです。

           

          ところが、マトリの場合この職務質問ができません。

          ですから、地道な内偵捜査を積み重ねて摘発に至ります。

          今回もそのような地道な内偵捜査が行われたと報じられています。

           

          今回は、ただの使用(施用)の容疑で、密売とか密輸などの規模の大きな事件ではありません。

          にもかかわらずマトリの内偵捜査のターゲットになったのは、有名人であり、社会的影響が大きいからの一点に尽きます。

           

          今回は、逮捕により予定されていたライブが中止になり、ドラマやCMも打ち切られるなどしているそうです。

          まさに大きな社会的影響が生じています。

           

          われわれの身近なところでここまで大きな影響が生じることはなかなかありませんが、職場の同僚や部下がある日突然逮捕されることは十分起こりうることです。

          突然欠勤になるわけですから、まずは業務上の穴埋めを何とかしなければなりません。

          また、会社としては、その逮捕者に対してどのような処分をするのか、それをいつ行うのかの問題が生じます。

          その際、本人が容疑を否認しているならば、どう対処すべきなのかは悩ましい問題になります。

          社内でどのように説明するのか、取引先にどう説明するのかも悩みどころです。

           

          会社経営者や管理職の方々としては、今回のニュースを他山の石として、仮に我が社で似たようなことが起きたらどんな問題が生じるのか、それにどう対応したらよいのか、あらかじめ考えておくのがよいかもしれませんね。

           

           

           

           

           

           

          2019.03.07 Thursday

          日産元会長の保釈について

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            日産元会長が釈放されました。

             

            以前から当ブログで指摘しているように、この事件は罪証隠滅、とりわけ関係者との通謀のおそれが高い事案であり、この点が保釈判断の焦点となる事案でした。

             

            弁護人はこの点に関し、住居に定住して出入口に監視カメラを設置すること、インターネットは使用不可、パソコンは弁護人の事務所でしか利用しないことなどを裁判所に申し出たと報道されています。

            このような申出がされることは異例ですし、いろいろな大丈夫かなと思うところはありますが、罪証隠滅のおそれを少しでも低くしようとした弁護人の努力がうかがわれます。

             

            この件もそうですが、関係者や共犯者が多数の事件など、どうしても罪証隠滅のおそれが高くなる類型の事案はあります。

            そのような場合に、弁護人として、どのような方法で罪証隠滅のおそれが低いとアピールすれば良いのかは悩ましいところです。

            「このような仕組みを作りましたから、保釈しても罪証隠滅のおそれはないですよ」と主張できるような仕組みを作ることは有効だと思いますが、この点はあまり研究されていないと思います。

            今回の事例は、そのような仕組みを作った事例として先例的な意義があると思います。

             

            とはいえ、いくら上手い仕組みを作っても、それで罪証隠滅のおそれが何パーセント下がるのかはわかりません。

             

            そもそも、罪証隠滅のおそれがあるとかないとかと言ったところで、この事案で何パーセントのおそれがあるのかは、誰にも分からないのです。

            というのも、罪証隠滅のおそれがある事件(主に否認事件)で保釈がなされることは数年前までほとんどなく、経験豊富な裁判官や検察官であっても、「保釈したために罪証隠滅されてしまった事案」というのをあまり経験していないと思われるからです。

            私も、思い当たる経験はありません(知らないところで罪証隠滅されてしまったことはあるかもしれませんが)。

             

            最近は否認でも保釈が認められる事案が増えてきましたので、保釈をして罪証隠滅されてしまった事案があればそれを蓄積し、こういう事案は保釈しても罪証隠滅の危険は小さい、こういう事案は危ないということを経験則として語れるようになるのが望ましいと思います。

            弁護人の立場としては、「本来危ない事案だけど、経験上、こういう仕組みを作れば罪証隠滅のおそれが劇的に低下する」という仕組みを構築できれば、保釈を勝ち取る可能性が更に高まるでしょう。

             

             

             

             

             

             

             

             

            2019.03.04 Monday

            求刑できませんという事例

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              公判で検察官が「今日は求刑できません」と発言して、延期になったという「事件」があったと報じられています(2019年3月2日毎日新聞)。

               

              争いのない常習累犯窃盗事件で、検察官は、論告を読み始めたのに求刑をせず、次回に延期したというのです。

              その原因はこの記事に書かれているとおりで間違いないでしょう。

              求刑は捜査を担当する検察官が上司の決裁を取って決定するところ、公判を担当する検察官には決定権限がなく、その場で対応できなかったという経緯だったと思われます。

               

              公判期日が迫っているのに求刑が決まっていない、ということはよくあることです。

              捜査担当検察官は公判期日を意識していないので、公判担当検察官から連絡する必要があります。

              捜査担当が先輩だったりして言いづらい場合も少なくありませんが、それでも強く言って決めさせなければなりません。

              今回はそのあたりの連絡を怠っていたということでしょうが、このような事項の管理は公判担当の基本中の基本です。

              当日に気づいてバタバタすることはありますが、公判の審理中に気づくというのは遅すぎます。

               

              この記事で気になったのは、公判には男性検察官の他に上司と思われる検察官が立ち会っていたということです。

              公判に複数の検察官が立ち会うのは、ふつうは、裁判員裁判や複雑な否認事件など検察官の負担が大きい事件の場合です。

              争いのない常習累犯窃盗事件は、検察官の負担がかなり少ない部類の事件ですから、通常は1人で立会します。

              にもかかわらず複数の検察官が立会したというのは、この男性検察官が新人(新任検事)だったので、指導役の先輩検事が付き添ってきたということでしょう(厳密には「上司」ではないと思います)。

              検察官が新人だったために事件の管理ができていなかった、というのが今回の真相だと思います。

               

              ここまで述べてきた事情は検察内部のもので、被告人や裁判所には関係のない話。

              無駄に期日を延期するのは一般論として被告人にとって不利益ですし、弁護人や裁判官にも迷惑です。

              記事でも弁護人が怒っていましたが、至極もっともです。

               

              もっとも、裁判官は、おそらく延期した分だけ未決勾留日数の算入を増やしているはずです。

              これは、判決前の身柄拘束期間の一部を刑期に算入し、その分刑期を短縮するというもので、何日算入するかは裁判官が判決で決めます。

              今回も延期した分だけ未決勾留日数が多く算入されて刑期が短くなっているはずで、被告人の不利益が最小になるよう調整されていると思われます。

               

              逆に言えば、そういう調整が働くからか、今回のような件はあまり報道されてきませんでした。

              似たようなことはこれまでにもあったはずですが、闇に葬られてきたと思います。

              今回の件も、問題があったことは検察内部で報告されてこなかったのではないでしょうか(地検の幹部が「事実関係がわからない」と言っているのもそのためだと思われます)。

               

              このような報道がなされると全国の検察官の戒めになりますので、非常に意義が大きいと思います。

               

               

               

               

               

               

               

               

              2019.03.01 Friday

              なぜ保釈が認められたのか〜元俳優の場合と日産元会長の場合

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                強制性交等罪で起訴された元俳優が保釈されたという報道と、日産元会長が再度の保釈請求をしたという報道がありました。

                元俳優の場合、(検察の準抗告はありましたが)あっさり保釈が認められたのに対し、日産元会長の場合は今回はどうなるか分かりませんが、今までは2度も棄却されました。

                その違いは何でしょうか。

                 

                保釈についての制度については当ブログでも以前触れました。

                制度としては除外事由(刑訴法89条各号)に該当しない限り認められる「権利保釈」と、裁判官の裁量による「裁量保釈」があります。

                元俳優の場合、法定刑が重い強制性交等罪で起訴されたので権利保釈の除外事由に該当します(刑訴法89条1号)。

                ですから、罪証隠滅のおそれ(刑訴法89条4号)があるかどうかの判断をするまでもなく、裁量保釈の道しかありませんでした。

                この点で日産元会長の場合よりも不利だったといえます。

                にもかかわらず、裁量保釈があっさり認められたわけです。

                 

                裁量保釈の判断においては、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれ、勾留されることによる不利益等の要素から判断されます(刑訴法90条)。

                元俳優の事件の場合、本人と被害者以外に重要な証言ができる人はいないと思いますので、罪証隠滅のおそれとしては、被害者に働きかけをするおそれしか想定できません。

                もっとも、この被害者は出張マッサージ店の従業員とのことですから、元俳優はその被害者の住所や電話番号などを知らないはずです。

                つまり、元俳優が仮に被害者に働きかけようと思っても、現実的には不可能だと考えられるのです。

                 

                このように考えますと、罪証隠滅のおそれはないと判断されるのはもっともだと思います。

                (逃亡のおそれについても、失職したとはいえ有名人だし、逃亡は無理だろうという判断ではないかと思います。)

                 

                他方、日産元会長の場合は、関係者が多数存在し、かつ、検察が事情を聞けていない人物もいたようです。

                しかも、日産元会長がその関係者がどこの誰だかよく分かっており、連絡を取ることは比較的容易です。

                したがって、罪証隠滅のおそれが高いと判断される可能性は、それなりに高いと思われます。

                 

                さて、ここまでは、「事件を認めているかどうか」について敢えて触れませんでした。

                ひと昔前までは、「否認している=罪証隠滅のおそれあり」と判断される場合が多かったと思います。

                しかし、現在ではこのような単純な判断がされることは減ってきていて、実質的な判断がされるようになってきました。

                 

                私は、罪証隠滅のおそれについては、〆畩擶L嚢坩戮鬚垢襪海箸客観的に可能かどうか、被疑者・被告人がその罪証隠滅行為をやりそうなのか、という順序で検討しています(多くの検事や裁判官、弁護士も同じような考え方をしていると思います)。

                否認している場合は△鳳洞舛靴泙垢、,砲牢愀犬ありません。

                 

                元俳優の場合は、先ほど述べたように,ないわけで、仮に否認していたとしても罪証隠滅のおそれはないという判断になったと思います。

                この点で日産元会長の場合と大きく異なります。

                日産元会長の場合に,鯣歡蠅靴るのは難しいと思いますし、否認している以上△眸歡蠅靴たいと思います。

                そうすると、罪証隠滅のおそれを否定するのは困難で、刑訴法89条4号に該当する以上権利保釈は難しいと考えられます。

                保釈を得るには、逃亡のおそれがないことや、身柄拘束が続くことの不利益を主張して、裁量保釈をねらう作戦になるのではないでしょうか。

                 

                いずれにせよ、保釈の判断は、犯罪の重さや否認しているかどうかという要素だけで決まるものではなく、それぞれの事案ごとに、様々な事情を丁寧に検討する必要があります。

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                2019.02.25 Monday

                医師による強制わいせつ被告事件の無罪判決について

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                  医師の被告人が、病院において女性患者の胸をなめたとして起訴された事件につき、先日無罪判決が下されました。

                   

                  検察側は、被害女性の供述を中心に、右胸から^綮佞汎碓譴裡庁裡膳燭検出されたこと、▲▲潺蕁璽軸嫩蠅陽性であったことから、女性の供述が信用できると主張し、弁護側は、女性の供述が麻酔によるせん妄状態のものである、鑑定には問題があるなどと主張したようです。

                   

                  わいせつ事件では被害者の供述が核心的証拠になることが多いのですが、常にその供述の信用性が問題になります。しかも、今回は女性がせん妄状態にあってもおかしくない状況であったため、その信用性はより慎重に判断しなければならず、客観的証拠が非常に重要であったといえます。

                  そんな中でも、客観的証拠として最大のポイントは鑑定だったと思います。女性の右胸から医師の唾液が検出され、舐めた以外に付着する機会がなかったのならば、被害があったことはまず間違いないと言えるからです。

                   

                  裁判では、検出されたDNAの量が多量だったことが争点になったようで、DNA型鑑定を行った科捜研職員が多量のDNAが検出されたと証言したものの、他方で、そのメモを適切に作成していなかったことや資料を廃棄したことなどが問題とされました。

                   

                  詳細な事情が分かりませんが、個人的にはDNAの量はさほど重要でなく、それよりも「DNAが他の機会に付着する可能性」が問題だったと思います。

                  DNAは血液や皮膚片、毛根などに含まれていますが、鑑定では何に由来するDNAなのかは(精子以外は)わかりません。唾液それ自体にはDNAはありませんが、ふつう口の中の細胞が唾液に入っていますのでそのDNAが検出されます。ただ、鑑定ではDNAが出てもそれが唾液(に含まれる細胞)によるものなのか、由来は分からないのです。

                   

                  前述のように検察側はDNAの量について立証を試みたようですが、何に由来するかわからないものについて量を議論することにどれだけ重要な意味があったかは疑問です。DNAの量について立証するのはあまり一般的とは思えませんし、例えば、「この量は皮膚片だとしたら多いが、血液だとしたら少ない」ということもあり得るのではないかと思います。

                   

                  さて、捜査機関がアミラーゼ鑑定を行ったのは、DNAが何に由来するかわからず、DNAが検出されたからといって唾液等が含まれているかは分からないからです。

                  そこで、アミラーゼ鑑定の結果が陽性ならば、唾液等のアミラーゼが含まれる体液が付着していたことが分かります。

                  ただし、誰の唾液等に由来するのかはわかりません。

                   

                  結局、鑑定から分かったことは^綮佞裡庁裡舛隆泙泙譴覯燭が女性の右胸に付着していた、⊇性の右胸に誰のものか分からない唾液等が付着していた、ことだけです。

                  唾液等のほかに皮膚片とか様々なものが混入している可能性がありますから、2つの鑑定から「医師の唾液が女性の右胸に付着していた」と断言することはできません。

                   

                  そして、△砲弔い討禄性自身やその他の人の唾液等に由来する可能性もあると思いますので、より重要なのは,隼廚い泙后覆發舛蹐鶚△盻性の証言を裏付ける意味はありますが、強力な証拠ではないという意味です)。

                   

                  ふつう、女性の胸は下着と衣服で隠されており、赤の他人の男性のDNAが(それが何に由来するにせよ)付着することは通常考えられません。

                  したがって、通常のわいせつ事案では,呂なり有力な証拠となり得ます。

                  しかし、今回は医師が女性の胸を手術した医師であるため、わいせつ行為以外の理由でDNAが付着する可能性があり、弁護側はその点について具体的な主張をしていました。手術の時や触診の時に付着する可能性があるという主張だったようです。

                  この点に関する検察側の反論は報道を見てもよく分かりませんでしたが、無罪になったということは有効な反論ができなかったということでしょう。

                   

                  現在のDNA型鑑定は以前とは比べものにならないほど精度が高くなっていますから、他人と取り違う可能性はほぼないと言ってよいと思います。

                  ですから、DNAが検出された場合に最も重要になる点は、「犯行時以外に付着する可能性があるか」という点です。

                  本人が意図しないところでDNAを含む何かが付着する可能性もありますから、ありとあらゆる可能性を想定して、それを否定できなければ犯行時に付着したと判断するのは危険です。

                   

                  このことは指紋の場合も同様です。以前、コンビニ強盗の事案で、自動ドアから検出された指紋を頼りにある人物を逮捕・起訴したものの、事件以前にこの人物がコンビニを訪れており、その際に自動ドアに触れたということが判明したため、無罪になった事案がありました。

                   

                  DNA型鑑定は非常に有効な捜査手法ですが、それに頼り過ぎるのは危険です。

                  他の機会にDNAが付着した可能性を検討する必要がありますし、いったんDNA型鑑定を脇に置いておいて、通常の事件と同様にあらゆる証拠を集めることが重要なのです。

                  2019.02.13 Wednesday

                  ゴーン氏事件をめぐる身柄拘束について

                  0

                    今回は、特別背任罪での再逮捕再勾留に関して述べます。

                    こちらについては、それまでの虚偽記載罪と全く事案が異なりますので、罪証隠滅のおそれがあると判断されたのはやむを得ないと思います。

                    逃亡のおそれについても、虚偽記載罪と法定刑の上限は同じですが、実質的にはこちらの方が明らかに重く、実刑の可能性さえありますから、その分だけ逃亡のおそれが高まります。

                    したがって、逮捕や勾留が認められたのは仕方がないと思います。

                     

                    注目したいのは、保釈が認められなかった点です。

                    一般的な傾向として身元の固い著名人は保釈が認められる場合が高いと言えます。

                    また、最近は保釈が広く認められる傾向があり、いつ保釈が認められるのかという時期の問題はありますが、確実に実刑となる被告人でさえ保釈が認められる場合が多くなってきています。

                    しかし、今回は、少なくとも現時点での保釈は認められませんでした。

                     

                    保釈が認められる条件(要件)は何でしょうか。

                    まず前提として起訴後であることです。起訴前の保釈はそもそも認められませんが、起訴後であれば、まず権利保釈が認められる場合があり、それがダメでも裁量保釈が認められる余地があります。

                    一定の除外事由に該当しない限り保釈が認められるというのが権利保釈です。

                    除外事由に該当しても、裁判官の裁量で認められる余地があるのが裁量保釈です。

                     

                    権利保釈の除外事由は、刑事訴訟法89条1〜6号に規定されていますが、非常に大雑把に述べると、―鼎ず瓩任△襪海箸篏鼎ち芦覆ある場合(1〜3号)、∈畩擶L任里それがある場合(4,5号)、住居不定の場合(6号)の3つに大別されます。

                    着目すべきは、勾留の要件だった「逃亡のおそれ」が除外事由とされていないことです。

                    住居があって罪証隠滅のおそれがなく、逃亡のおそれしか認められない場合、勾留は認められ得るものの、起訴後は保釈が認められるのです。

                    保釈の場面において、逃亡のおそれは、他に除外事由があって権利保釈が認められない場合に、裁量保釈を認めるかどうかの判断要素として考慮されるにすぎません。

                     

                    さて、ゴーン氏の場合に戻りますが、権利保釈は認められるでしょうか?

                    結論として保釈が認められませんでしたから、裁判官は権利保釈が認められない、つまり除外規定に該当するという判断をしたことになります。

                    ゴーン氏の場合、。院腺街罎砲賄たらないはずですし、6号にも当たらないでしょう。

                    そうすると、△虜畩擶L任里それがあるという判断だと思います。

                     

                    私は、ゴーン氏がフランスに戻ると繰り返し述べて、保釈後海外に行くことを示唆したことがその大きな要因ではないかと考えています。

                    海外に行くことは逃亡のおそれには直結しますが、そもそも逃亡のおそれは前述の通り権利保釈の除外事由ではありません。

                    では、なぜ保釈が認められないかというと、海外に行けば罪証隠滅のおそれが高まるという点に尽きると思います。

                     

                    今回の事件は、サウジアラビアに関係者が所在し、しかも検察はその関係者の取調べができていないと言われています。

                    そうであれば、海外でそのサウジアラビアの関係者やその他の関係者と口裏合わせをする可能性が高いと言えるように思います。

                     

                    ゴーン氏が日本国内にとどまっても、その関係者らが日本に来て会うかもしれないし、電話やメール等でやりとりはできますから、海外に行くかどうかは罪証隠滅に関係ないのではないかという疑問を持たれるかもしれません。

                     

                    しかし、日本国内であれば検察の捜査権が及びます。

                    日本国内のどこかで関係者と会った場合、どこかに設置された防犯カメラに映像が残るかもしれません。

                    自動車のドライブレコーダーに映ってしまうかもしれません。

                    ということは、これらの映像が残って検察に押収される可能性が出てくるのです。

                    電話やメールも通話や通信の記録が残ってしまいます。

                    それらを差し押さえられる可能性がありますし、使用した端末を差し押さえられるかもしれません。

                    そうして、関係者と連絡を取ったことがバレてしまえば、保釈が取り消されるのみならず裁判でも無罪の立証に不利になりかねません。

                     

                    実際に検察がこのような記録等を入手しようとするとは限りません。

                    しかし、「やろうと思えばできる」ことが重要で、ゴーン氏においてそのことを認識すれば、誰かと会ったり、電話で話したり、メールで連絡を取るのを控えると思います。

                    弁護人も「証拠が残るから絶対にやめてください」とアドバイスすると思います。

                     

                    ところが、これが海外になれば基本的に日本検察の捜査権が及びませんので、上記のような記録等を検察が手に入れることは困難です。

                    そうであれば、ゴーン氏において関係者と連絡を取ることを控える理由が小さくなってしまいます。

                    結果、罪証隠滅をしようと思えばやりたい放題、ということになりかねないのです。

                     

                    したがって、海外に戻ると宣言している人については、権利保釈の除外事由である罪証隠滅のおそれがあるということになり、除外事由があって権利保釈が認められないこととなります。

                    また、裁量保釈については、逃亡のおそれが考慮されますので、海外逃亡のおそれが高いということで認められなくても仕方がないと思います。

                     

                    ゴーン氏も今は態度を翻して日本から出国しないと言っているようですが、いきなり態度が180度変わりましたので、裁判官に信じてもらえなくても仕方がありません。

                     

                    その点、共犯者のケリー氏は上手に対処したと思います。

                    ケリー氏はそもそも日本に拠点がないのに、裁判所には日本から出ないことを誓約してその結果保釈を認めてもらえました。

                     

                    ゴーン氏としては、当初はルノー社の仕事のためにフランスに戻る必要があると考えたのかもしれませんが、仮に「裁判が終わるまで日本から出ない」と言っていたならばもう少し早く保釈が認められたかもしれません。

                     

                    保釈が認められる時期については、公判前整理手続において争点と証拠が固まった時点以降になるだろうと報じられていますが、私もその可能性が高いと思います。

                    2019.02.08 Friday

                    ゴーン氏事件をめぐる身柄拘束について

                    0

                      今回は、なぜ勾留延長が却下され、その不服申し立て(準抗告)まで棄却されたのかということについて検討してみようと思います。

                       

                      報道によると準抗告棄却の理由は、1回目の勾留事実(2010年から14年の虚偽記載罪)と2回目の勾留事実(2015年から2017年の虚偽記載罪)は事業年度の連続する一連の事案であるという点のようです。

                      要するに1回目の勾留事実も2回目の勾留事実も一連のものであり、事情や証拠が共通していて、新規の事情がほとんどないという指摘だと思われます。

                      そして、1回目の勾留事実は既に起訴されているので、それとほぼ同じ内容の2回目の勾留事実についても捜査は尽きており、勾留延長すべき「やむを得ない事情」がないということでしょう。

                       

                      いったん報酬に関する記載の方法を議論し、実行したのであれば、以後は前年を踏襲するだけですので、たいした話し合いはなく淡々と実行するのが普通だと思います。

                      もちろん、ある年度からやり方を変えたとか、関与する人が異動したので一から議論し直したというような、それまでと異なる新たな事情があれば、捜査によってその点の事実を解明する必要が生じます。

                      しかし、今回の場合、検察側の主張や証拠には、そのような新規の事情がほぼなかったのだろうと推測されます。

                       

                      ではなぜ2回目の事実につき逮捕と勾留が認められたのか、という疑問が出てきますが、その点はゴーン氏が何を供述するか確定できなかったからだと思われます。検察が新規の事情はないと思っていても、ゴーン氏側が「この年度からはこういうことがあって・・・・」と新たな供述をするかもしれません。新たな供述が出てくれば、その真偽を明らかにするための捜査が必要となりますし、新たな罪証隠滅の可能性も出てくることになります。

                      そして、逮捕状請求の時点や勾留請求の時点では十分な取調べができていないため、新たな供述が出てくる可能性を否定できず、つまるところ罪証隠滅のおそれが否定しきれませんから、逮捕や勾留が認められたのはやむを得ない判断だったと思います。

                       

                      しかし、さすがに勾留して10日間も毎日取調べをしたにもかかわらずそこで新たな供述が出てこないのであれば、今後も新たな供述が出てくる可能性はほぼないでしょう。

                      今回ゴーン氏も新たな供述はしなかったと思われます。

                      そうすると、捜査機関が新たになすべき捜査などないはずで、勾留延長の条件である「やむを得ない事情」が認められないと裁判官が判断したのは、ある意味当然かもしれません。

                       

                       

                      さて、ここまでは1回目の勾留事実と共通の部分については捜査の必要がないという前提で話を進めてきました。

                      それは1回目の勾留事実について既に起訴がされていたからです。

                      起訴するということは、有罪にする十分な証拠を集めたということであり、捜査は尽きているということです。

                       

                      以前のブログで、処分保留で再逮捕・再勾留するのではなく、起訴した上で再逮捕・再勾留するのは珍しい、と述べました。

                      ここからは空想の域を出ない私見ですが、もし、今回も1回目の勾留事実について起訴していなければ、勾留延長についても別の判断になったかもしれません。人権の観点からは無茶苦茶な話ですが。

                       

                      2回目の勾留事実が1回目のものとほぼ同じだとしても、1回目の勾留事実について十分な証拠がなく、まだ起訴する判断ができない状態であれば、ほぼ同じ事実である2回目の勾留事実についても十分な証拠収集ができていないことになります。

                      ですから、2回目の勾留事実について引き続き身柄拘束して捜査を行う「やむを得ない事情」があり、結果勾留延長が認められるという判断になったかもしれないのです。

                       

                      しかも、今回は1回目の勾留が起訴したことによって継続しており(処分保留だと1回目の勾留は打ち切りになります)、その保釈が認められるまで(即日認められることはほぼありません)は2回目の勾留が途切れてもゴーン氏の身柄拘束が続きます。

                      ということは、前回述べたような勾留延長却下というゼロ回答であっても、その日のうちに起訴しなければならないというような状況には陥りません。

                      延長期間を削るのではなく、延長却下でも問題ないと裁判官が判断しやすい状況だったと言えるかもしれません。

                       

                      このように、勾留延長却下という裁判官の異例の判断には、検察が1回目の勾留の事実について処分保留せずに起訴したことが背景にあったように思えるわけです。

                       

                      処分保留せずに起訴して再逮捕するのは、検察のフェアな判断であるはずです。

                      しかし、仮にそのことによって勾留延長が認められないのであれば、検察としては起訴せず処分保留して再逮捕再勾留したほうが良い、と考えるかもしれません。

                      この点は、大きな皮肉であって、身柄拘束に関する日本の制度に矛盾があることを示唆しているようにも思えます。