2020.07.31 Friday

ストーカー規制法について(その1)

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    2020年7月30日付けでストーカー規制法に関する最高裁の判断が示されました。

    事案は2件ですが、いずれも被害者の自動車にGPS機器を取り付けることにより被害者を監視していたところ、この行為はストーカー規制法の「住居等の付近において見張り」に該当しないというものでした。

     

    GPS機器を使って自動車の動きを監視することはできますが、そのとき監視している側は被害者の「住居等の付近」にはいないので、「住居等の付近において見張り」には該当しないという、ある意味シンプルな判断です。

    GPS機器が犯人の目の代わりをしているという主張は可能と思いますし、現に検察もその主張をしたようですが、認められなかったようです。

     

    報道に違和感を覚えた方も少なくないと思いますが、類推解釈を許さない罪刑法定主義に忠実な判断であり法律家としてはやむを得ない判断だと思います。GPS機器を使った監視行為もストーカーとして刑事罰の対象にする必要はあるとは思いますが、現行法の解釈では無理があり、立法による解決が必要ということになります。

     

    そもそもこのような問題が起こるのは、ストーカー規制法が非常にわかりにくい、使いにくい法律だという点に根本原因があると思います。条文が複雑で、どのような場合に犯罪になるのか非常にわかりにくいのです。

    正直なところ、ストーカー規制法を正確に理解している検事は多くないように思われます。裁判官でさえ、誤解している人が結構いるのではないかとさえ思います。

     

    また、ストーカー犯罪は通常の犯罪と少し異なる捜査経過をたどり、警察から検察に送致されたときの犯罪事実(送致事実)の内容と起訴状の犯罪事実(公訴事実)の内容が異なる場合が多いのです。通常は送致事実と公訴事実はほぼ同一ですし、そうでなければならないのですが、ストーカー規制法の場合は異なることがむしろ多いのです。

     

    ストーカー規制法の事件処理には実は少なからぬ問題があるのですが、次回以降、ストーカー規制法がいかに複雑であるのかという点や、捜査上の特性について説明したいと思います。

    2020.07.10 Friday

    賭博罪について

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      賭博罪は刑法185条に規定されている犯罪です。

      「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない」

      とあります。

       

      この「賭博」とは「偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」を意味します。

      「偶然の事情」ですが、実力差があっても多少は偶然の要素があるならば肯定されます。スポーツとか囲碁将棋など実力差が結果に大きく影響する場合でも、弱者が偶然勝つ場合もあるわけですからお金を賭ければ賭博です。

      「ただし」以下は例えば安いお菓子を賭けた場合は賭博罪は成立しないという意味です。もっとも裁判例の傾向では、少額であってもお金を賭けた場合にはこれに該当しません(原則通り賭博罪が成立する)。

       

      賭博罪の関連犯罪として常習賭博罪(刑法186条1項)と賭博開帳図利罪(同条2項)があります。

      常習的に賭博をした場合は常習賭博罪となりますし、(自分は賭博に参加しなくても)賭博の場所を提供して利益を得た場合は賭博開帳図利罪となります。

       

      賭博罪の概要はこのようなところです。

      賭博の定義に戻りますが、この定義は結構広いと感じています。世の中の様々なことが賭博にあたる可能性があります。

      花札とかサイコロ(丁半賭博)、トランプ(バカラやポーカーなど)のような典型的な賭博だけでなく、あらゆるゲームがお金を賭けると賭博になる可能性があります。スポーツなどもそうです(野球賭博などがありますね)。

      テレビゲームでも、参加料を取った上で1等賞には賞金○円という形の大会を開催すれば賭博になる可能性があります。eスポーツでは賞金が出る場合が多いと思いますが、賭博罪の該当性がトピックになったことがあったと思います。

       

      このように見ると、世の中のあらゆることが賭博にあたる可能性があるのです。

      ただ、実際に摘発されるのはごくごく一部です。

      なぜならそもそも賭博罪は被害者がおらず、表に出にくい、つまり捜査機関に認知されにくい犯罪だという点があります。

      また、警察が検挙する大半の事件は暴力団がらみの場合です。違法賭博はしばしば検挙されていますが、そのほとんどが暴力団の経営だったり背後の暴力団が利益を得ていると推測される場合です。

      現在、賭博罪はその大半が暴力団取り締まりの一環として摘発されており、一般の人による賭け麻雀や賭けゴルフなどはほとんど摘発されません。

      結果、世の中の賭博罪に該当する多くの事実が摘発されないでいます。

      摘発がされないまま事実が積み重なり、その結果「法的には違法だが摘発されないから普通に行われている」という現象が生じるのです。

       

      賭け麻雀はその最たる例と言って良いと思います。

      お金をかけて麻雀をやることは実態としてはむしろ一般的で、賭けない方が少数派ではないかと思います。

       

      しかしながら、賭け麻雀は先ほど述べた賭博の定義には明らかに当てはまります。

      パチンコ店のような特殊景品・三店方式の方法も採用できません(風適法23条2項により麻雀店は賞品を交付する提供することができない)。

      したがって、少額のお菓子を賭けるなど前述の「ただし書」に該当しない限り賭け麻雀は違法となってしまうのです。

      世間の「常識」とある意味ズレていると言えるかもしれません。

       

      実際に摘発もなされています。

      平成24年11月5日の京都地裁の判決は、麻雀店の経営者らに賭博開帳図利罪の成立を認めました。この事例の被告人は、全国展開する麻雀店グループの経営者だったようですし、判決でも暴力団との関係について言及はありません。レートも近隣の競合店の相場を参考にしていたとあるので特に高額なレートだったわけでもなさそうです。

      おそらく風営法の許可も取得していたと思います。

       

      前回の記事で指摘したような特殊事情はなく、普通の麻雀店と変わらない店だったと思われます。

      それでも摘発され有罪となったわけです。

      この事件で、賭け麻雀をしていた客が実際に賭博罪等で処罰されたかどうかはわかりません。摘発されていないかもしれませんし、摘発されても不起訴(起訴猶予)になったかもしれませんが、少なくとも処罰される可能性はあったと思います。

       

      そうだとすれば、身を守るためにはとにかく賭け麻雀をしないということ、お金を賭けてはならないとせざるを得ないでしょう。

      それがおかしいというのであれば、法律を変えるしかありません。

      2020.06.19 Friday

      麻雀と賭博罪

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        元検事長が新聞社の人と賭け麻雀をしたという件がもとで辞任しましたが、にわかに麻雀と賭博罪の関係に注目が集まっています。

        元検事長らに対しては告発がなされたそうであり、刑事事件としてはまだ結論が出ていない状態ですが、そんな中で賭け麻雀に関して賭博罪で逮捕されたり書類送検された事案が報道されています。

        1件目は賭け麻雀をした暴力団幹部らが逮捕されたという件で、2件めはマンションの一室で賭け麻雀をした人らが書類送検されたという件です。

        この2件は、どちらも極端な高レートというわけではないようです。

        元検事長と同じ、いわゆるテンピンくらいだと思われます。

         

        この2件も未だに起訴されていませんし、ましてや有罪判決もでていませんが、一連の報道に接して「麻雀が賭博になるの?」と思った方も少なくないと思います。

        麻雀でお金をかけること自体はごくありふれたことではないかと思いますし、テンピン程度のよくあるレートの賭け麻雀でなぜ逮捕されたり書類送検されるのかと思われたかもしれません。

         

        ここからは個人的な印象ですが、逮捕や書類送検の2件はやや特殊な事例だと思います。

        1件目は、逮捕されたのが暴力団幹部だということがまず挙げられます。

        賭博罪は基本的に反社会的勢力の収入源を絶つ意味で摘発される例が大半です。

        そのため、暴力団関係者が賭け麻雀をした場合逮捕の可能性は一般人より高くなると思います。

        また、報道によればこの件は別件の薬物事件で捜索(いわゆるガサ入れ)をした際に見つかったようです。

        賭博罪で現行犯逮捕した背景には薬物事件の捜査の関係があったのかもしれません。

         

        2件目は、マンションで麻雀店の営業をしていた事案のようで、賭博開帳図利罪での摘発もされています。

        賭博開帳図利罪は、自分が賭博をするわけではなく、他人に賭博をさせることで利益を得る場合に成立するもので、賭博の胴元を処罰するためのものです。

        賭博のプレイヤーは賭博罪や常習賭博罪に問われますが、賭博開帳図利罪はそれらと質が異なりますし、量刑も重いです。

        2件目はおそらく胴元の摘発を狙ったものであり、プレイヤーを賭博罪で書類送検したのは付随的なものだったと思われます。

         

        このようにこれら2件はやや特殊な事例だと思われますが、一般の人が自宅などで賭け麻雀をした場合に、わずかであったとしても逮捕される可能性はあるのでしょうか?

        賭け麻雀は本当に犯罪なのかということでもありますが、この点はいろいろ難しい問題もありますので次回に述べたいと思います。

        2020.06.10 Wednesday

        殺人容疑での勾留却下が確定した件

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          殺人罪での勾留請求却下が確定したという件が報じられています。

          富山県でベトナム人技能実習生が殺人の被疑事実で勾留請求されたところ、富山簡裁がこれを却下し、その後検察が準抗告をしたものの却下の判断が維持され、さらに最高裁に特別抗告したもののやはり判断が維持されたとのことです。

           

          この件に関しては、6月9日付けで富山県弁護士会が会長声明を出しており、事実関係はそこに詳細が書かれています。

          報道等も参照しますと、事案の流れとしては、

          〃抻,6日間にわたって被疑者をホテルに宿泊させつつ「任意の取調べ」を行った

          △修慮紂∋狢琉箚罪で逮捕・勾留した

          △慮留中、,違法であるという理由で弁護人が△慮留の準抗告を申立て、その結果勾留が取り消された

          と鏥深圓鬚い辰燭鷦疂した後、今度は殺人罪で逮捕し、検察が勾留請求をした。

          イ箸海蹐、富山簡裁がい慮留請求を却下し、検察が準抗告したものの却下の判断が維持され、その後最高裁に特別抗告したものの勾留却下の判断が維持された

          ということのようです。

           

          この件の肝は,痢崘ぐ佞亮萃瓦戞廚違法であると言うことです。

          一般論として、事件の被疑者に対して任意で取調べを行うことは可能です。

          ただ、「任意」というのが形だけのもので、実質的に強制であれば違法となり得ます。

          被疑者の身柄を拘束し、実質的には逮捕をしているにもかかわらず、逮捕状を得ていないのであればこれは重大な違法と言わざるを得ません。

           

          逮捕前に被疑者の取調べを行う場合はありますが、逮捕していないのですから任意の取調べでなければならないのは当然です。

          過去に、強引な取調べを行ったなどと指摘されて問題になった事案が多くありますので、警察も慎重に取調べをしていると思います。

          あまりに長時間の取調べをしないとか、取調中に取り囲まない、弁護士に対する連絡を邪魔しない、しっかり帰宅させるなど、通常は配慮をしていると思います。

           

          今回は、ホテルに宿泊させ、その間も事実上監視していたということが問題になったとのことです。

          殺人という重大事案であり、被疑者が逃げる危険性が高いと考えたのかもしれませんが、配慮を欠いていたと言わざるを得ないでしょう。

           

          今回の事件では、い了人罪での勾留請求と同時に死体遺棄罪で被疑者を起訴しており、おそらく死体遺棄の起訴後勾留がなされていると思われますので、被疑者が釈放されることはないと思います。

          ただ、殺人罪での勾留ができないため、被疑者には取調受忍義務がありません。

          つまり、被疑者が殺人の容疑での取調べを拒否すれば、警察や検察は取調べができないことになります。

          被疑者の供述を得られない中で、果たして起訴されるのかが注目されます。

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

          2020.05.19 Tuesday

          DV事案は逮捕・勾留される場合が多い

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            コロナ禍も徐々に収束が見えてきた?状況ですが、そんな最中にタレントが妻に暴行を加えたとして逮捕された事案が報道されました。

            報道によれば、タレントは妻の顔をたたいたという容疑で逮捕されたようですが、怪我をしたとは報道されていないので、逮捕の罪名は暴行罪と思われます(怪我をしていれば傷害罪)。

             

            意外かもしれませんが、暴行罪の法定刑はどちらかというと軽い部類に入ります。

            「二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」であり、最大15年の懲役刑が認められ得る傷害罪とは相当な差異があります。

            起訴されても多くは罰金刑となると思われますし、前科でもない限り暴行罪で懲役刑の実刑になることは珍しいと言えると思います。

             

            このように法定刑が比較的軽いのですが、暴行罪では被疑者が逮捕・勾留される確率が高いパターンがあります。

            その典型がDV事案です。

             

            なぜDV事案で逮捕・勾留される場合が多いかというと、ほとんどの事案で(逮捕や勾留の要件である)罪証隠滅のおそれがあると判断されるからです。

            家庭内に加害者・被害者が存在するため、身柄拘束をしないと加害者側が被害者側に対して「本当のことを言うな」とか、「被害届を取り下げろ」などと強く働きかけることは容易に想像できます。

            被疑者が犯行を認めている場合でも、(DV事案の重要な情状事実である)常習性については被害者の供述と食い違う場合が大半で、この点について「余計なことを言うな」などという働きかけをする危険性は高いと言えるでしょう

            何らかの働きかけをするのがむしろ自然と言っていいかもしれません。

            また、被害者側が加害者を怖れている場合も多く、働きかけに屈してしまう危険があります。

             

            したがって、DV事案では「罪証隠滅のおそれ」という逮捕や勾留の要件が容易に満たされます。

            法定刑が比較的軽いにもかかわらず、逮捕・勾留が認められやすいといえるのですが、DV事案の場合は「氷山の一角」であるケースが多く、過去の経緯を考慮すれば逮捕・勾留するのは実質的には相当と言える事案も少なくないでしょう。

            また、「今この状態で被疑者を(被害者のいる)家庭に戻すともっとひどいことになる」というような再犯のおそれがあるケースもあると思います。

             

            今回のタレントの件では逮捕はされたものの、勾留は認められませんでした。

            なぜ認められなかったのかは報道を見てもはっきりしませんが、そもそも罪証隠滅のおそれがあまりないような事案だったのか、あるいは、何らかの効果的な対策が取られたのではないかと思います。

            いずれにしても、弁護人が上手く立ち回ったのだろうと推測しています。

            2020.03.13 Friday

            他人に感染症をうつすことは犯罪か 〜その2〜

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              前回取り上げたコロナウィルス陽性と診断された男性が飲食店に行ったという件ですが、警察が捜査を開始したとの報道がありました。

              前回のブログの後に様々な報道がなされていましたが、男性は店に行く前に「ウィルスをばらまく」と言っていたとのことですし、防犯カメラ映像もあって店内での行動も客観的に明らかになりますし、最悪の事態ですが、店の従業員の方が感染したとのことですので、傷害罪の証拠がそろいつつあるように見えます。

              前回も述べたとおり、因果関係の立証ができるかが最大のポイントと思われます。

               

              もっとも、現時点では傷害ではなく威力業務妨害での立件を視野に入れていると報道されています。

              ポイントは、男性がどのような行動を行い、それによってどのような形で店の業務が妨害されたのか、という点だと思います。

              仮に「ウィルスばらまいてやる〜」と店内で叫んだのであれば業務妨害は明らかでしょうが、どうもそのような事情は認められないようですから、業務妨害にしてもそれほど簡単ではないと思います。

               

              先例的な意味が大きな事件になると思いますので、今後の捜査の状況を見守りたいと思います。

               

               

              2020.03.06 Friday

              他人に感染症をうつすことは犯罪か

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                コロナウィルスの感染が拡大していますが、検査で陽性と判定された人がその事実を告げられた後に飲食店に出かけたというニュースがありました。

                居合わせた客や店員がコロナウィルスに感染するおそれもありますし、この行動については批判がなされています。

                 

                この件の詳細は不明ですので何とも言えませんが、一般論として、感染症に罹患した人が他人にうつした場合、犯罪になるでしょうか?

                 

                まず考えられる犯罪は傷害罪ですが、故意に性病をうつした事例で傷害罪が成立するとした判例(最判昭和27年6月6日)があるように、成立する可能性があります。

                傷害罪の事案の大半は他人に暴行を加えた結果として傷害を負わせる場合ですが、暴行を加えなくても傷害罪が成立する場合があり、感染症をうつした事例はその典型例として語られることがよくあります。

                 

                ただ、実務上傷害罪に問うには2つのハードルがあります。

                1つめは故意の問題で、2つめは因果関係の立証の問題です。

                 

                故意の問題ですが、傷害罪は故意に他人に傷害を負わせた場合に成立する犯罪です。

                傷害罪の故意は、他人に傷害の結果を負わせることについて認識し、認容している場合に認められますが、認容までしているケースは多くないと思いますので、感染症をうつしたという事例で故意が認められる場合は限られるでしょう。

                故意が認められない場合は、過失致傷(重過失致傷もあり得る)の問題となり、今度は過失が認められることが必要となります。

                 

                2つめの因果関係の立証の問題は、過失致傷の場合も問題になりますが、ハードルが高いです。

                例えば「インフルエンザ患者のAさんが、Bさんにうつそうと思ってBさんの面前でわざと咳をし、Bさんにインフルエンザを飛沫感染させた(疑いがある)」という事例を例にしますと、。舛気鵑インフルエンザに感染していたこと、■舛気鵑Bさんの面前で咳をしたこと、Bさんがインフルエンザに感染したこと、の事実は比較的容易に立証できると思います。

                ただ、これではAさんの咳によってBさんに飛沫感染させたかどうか、つまり因果関係があるかはわかりません。

                インフルエンザはよくある感染症であり、Bさんが別のルートで感染した可能性も十分にあるからです。

                刑法の立証のハードルは高く、因果関係も合理的な疑いを入れない程度の立証が求められますから、他のルートで感染した合理的な疑い(可能性)が認められる場合には因果関係は認められません。

                この事例だと、Bさんが感染した時期を特定し、その時期のBさんの行動を徹底的に解明して、Aさんの咳以外にインフルエンザに感染する可能性のある出来事がなかったことを立証しなければなりませんが、これはなかなか大変だと思います。

                 

                今回のコロナウィルスの場合は、2019年の年末より前には広まっていなかった感染症であり、日本国内で確認された限りでも現時点で1000人ほど(クルーズ船含む)の患者しか存在しないレアな感染症です。

                この点は、他のルートで感染する可能性が低いという意味で、因果関係の立証を容易にする方向に働きます。

                しかし、潜伏期間がかなり長く、発症時点から遡っていつ感染したのか特定が難しいと思われることや、感染しても無症状や軽症の人(知らずに感染している人)が多く存在すると思われ、それらの人から感染する可能性もあることなどの事情に照らすと、因果関係の立証はなかなか容易ではないかもしれません。

                もちろん因果関係は個別の事情によって判断されますが、一般的には立証は難しいのではないかと思います。

                 

                とはいえ、他人に故意に感染症をうつすことが犯罪となり得ることは、十分わきまえておく必要があると思います。

                また、本稿では取り上げませんでしたが、偽計業務妨害罪や感染症予防法違反などの罪に問われる場合もありますし、民事上の不法行為責任を負う場合もありますので、感染した場合は、素直に医師の指示に従うことが法律の観点からも重要です。

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                 

                2020.01.06 Monday

                ゴーン氏の逃亡について

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                  身柄拘束について色々な意見を述べてきましたが、昨年末にゴーン日産元会長が逃亡するというとんでもないニュースが飛び込んできました。

                   

                  日本の刑事司法制度批判に絡めて擁護したり、同情するような論調もありますが、私はこの逃亡は許されないことであり、他への悪影響が大きく非常に迷惑なことだと捉えています。

                   

                  1 状況が悪いことを認めるに等しい

                  ゴーン元会長は逃亡した理由として、日本の司法制度に問題があるなどという理由を述べているようです。

                  ただ、保釈直後ならばまだしも、現時点で逃亡する理由としては説得力が乏しいと言わざるを得ません。

                  逃亡した2019年末の段階では公判前整理手続がかなり進んでおり、弁護側の予定主張も明らかにしていたようです。そうであれば、検察の主張は既に明らかになり、証拠開示も相当進んでいたはずです。

                  そのような状況で逃げたのですから「有罪になると予測したから逃げたのではないか」といわれても当然だと思います。

                  何よりゴーン元会長は、実際に何があったのか直接体験して知っているのですから、検察の主張や証拠を見て、そのどこに綻びがあるのか、関係者がでたらめを言っているのかどうか分かるはずで、無罪を獲得できるかどうか予測できるはずです。そして、無罪を獲得できる公算が高いと判断したのであれば、逃げる必要などなかったわけです。

                  なのに逃げたのは、無罪を獲得できないと思ったからだと、そのように思われても仕方がありません。

                   

                  実際に裁判になれば、検察側証人の証言が崩れるなど様々な要素によってゴーン元会長が無罪を獲得できる可能性が出てきたと思われます。とくに、今回は検察側証人に関して司法取引が用いられたということですが、司法取引は未だ成熟した制度とはいえず、司法取引をした証人の証言の信用性がどのように転ぶか分かりません。

                  このようにゴーン元会長としては、裁判ではいろいろな攻め手があったと思われますが、今回の逃亡でその機会を放棄しました。

                  一方の検察側は無罪のリスクを回避できたわけで、不戦勝を得たといえると思います。

                  検察側は「世界中の批判に耐えうる証拠を収集しており、ゴーン元会長は間違いなく有罪である。被告はそれを恐れて逃げたのだ」と言い続ければ良いのです。

                   

                  ゴーン元会長が「私は無実だ。逃げたのは別の理由だ」と言ったところで説得力はありません。

                  このような批判を避けるには、弁護人にこのまま公判前整理手続を続けさせた上、公判に合わせて日本に戻ってくるしかないでしょう。あり得ないことですが。

                   

                  2 保釈判断が厳しくなると予想されること

                  今回の逃亡でもっとも大きな影響は、今後の保釈判断が厳しくなるだろうということです。

                  当ブログでも何度か言及してきましたが、近年保釈が以前よりも格段に容易に認められるようになってきました。

                  そのために、逃亡事例が生じるなど弊害も一部で生じてきましたが、全体の傾向としては保釈が緩やかな条件で認められるようになってきました。

                  このこと自体は個人的にも望ましいことであると思っていました。

                   

                  ところが、今回、これだけの事件でこれだけ社会地位もある人物が海外逃亡を図ったわけです。

                  保釈に当たっては、裁判所も検察も罪証隠滅に警戒をしていたものの、逃亡はさほど警戒していなかったのではないでしょうか。

                   

                  保釈中の被告が逃亡する事件は、昨年もいくつか発生していましたが、とはいえ逃げる人は少数派でした。保釈中に逃亡を試みるのはごく一部の変わった人だったといえるのです。

                  社会的地位のある人物が保釈中に逃亡したということは、今まで聞いたこともありませんでした。それこそ、暴力団の組長であっても(しばしば保釈されるのですが)保釈中に逃亡などしなかったわけです。

                   

                  それが今回まんまと逃亡してしまいました。

                  今回の事件は、ふつうの保釈逃亡事件の100倍のインパクトがありますから、これをきっかけに裁判官の保釈の判断が厳しくなることが予想されます。

                  とりわけ、外国籍の人や外国の永住権を持つ人(=外国に逃亡しても日本に強制送還される可能性がない人)については、今後保釈はほとんど認められなくなるのではないかとさえ思います。

                   

                  また、今回弁護人は保釈を認めさせるためにパソコンの使用を制限するなど、様々な工夫をしたわけですが、それも無駄になりました。今後、保釈を獲得するために弁護人が「こういう措置を執りますから」と言っても、通用しなくなるのではないでしょうか。

                   

                  さらに、今回ゴーン元会長は、15億円もの保釈保証金をいとも簡単に手放したわけですから、今後保釈保証金の相場が上がることも予想されます。保釈保証金は、逃亡したり罪証隠滅したりしないための保証として預かるわけですが、15億円という記録的な高額の保釈保証金であっても手放す人がいたのですから、見直される可能性が高いでしょう。

                  昨年の芸能人の逮捕事案で、保釈された際の保釈保証金が安いという批判が一部でなされていましたが(芸能人でも大体500万円前後が多いようです)、一見大金であっても、その被告の保有資産に照らせば金額が低すぎる、そんな金額ははした金に過ぎない、ということも十分あるわけです。

                  従前、ある程度の資産を保有している被告人にはいわば「優しい」判断がされていたと言ってよいと思いますが、今後は保釈保証金の金額が今後跳ね上がる可能性が高いと思います。

                   

                  このような次第ですから、今後の保釈に関しては悪い影響しかありません。弁護士としては非常に迷惑です。保釈請求したときに裁判官から「ゴーン元会長だって逃げたじゃないですか」と言われると、弁護士としてはなかなか返す言葉もないでしょう。

                  「ゴーン元会長はプライベートジェットを使用するという尋常ではない方法で逃亡したが、普通はそのようなことは不可能だ」と反論をすると思いますが、プライベートジェットなどを使わなくても密出国する方法はあると思いますし、説得力のある反論と言えないかもしれません。

                   

                  今回の逃亡劇は、保釈が緩和されてきた最近の傾向に水を差すもので、「逆行」を生みかねません。今回のせいで保釈が認められないケースがいくつも発生することが予想されます。

                  また、逃亡に関わったパイロットがトルコで身柄拘束を受けたといいます。出国の手続も今後は煩雑になる可能性がありますし、無関係な一般の人々にも迷惑がかかるかもしれません。今回の逃亡劇は、実に多くの人々に迷惑をかける可能性があります。

                   

                  今回の逃亡はそもそも密出国の罪(出入国管理及び難民認定法71条)に該当する犯罪ですし、許されません。安易な擁護や同情など決してできないと思います。

                   

                  2019.12.20 Friday

                  保釈を推進することの代償

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                    保釈をめぐって2件のニュースがありました。

                     

                    1件めは、保釈中に窃盗をして、審理中の事件の示談金に充てたというものでした。

                    この犯人は、もともと窃盗事件の被告として裁判を受けており、一審で懲役3年6月の実刑に処せられた後、控訴して保釈されたとのことです。

                    その保釈中に、審理中の事件の示談金に充てるため、また窃盗を行ったということです。

                    審理中の事件については、控訴審で示談成立により一審判決より刑が軽くなったといいます。

                     

                    この事件では、保釈しなければ新たな窃盗が行われることもなく、新たな被害を生むことはなかったことになります。

                    こういう事件に対処するには、新たな窃盗事件のほうを重く処罰するしかないと思いますが、この事件では640万円の被害に対して懲役3年(求刑懲役4年)とのこと。

                    この事件は、最初の事件と併合罪関係にあるため(確定前余罪のようです)なかなか重くしづらいという事情はあるにせよ、果たしてこの程度で妥当なのかという疑問は生じます。

                     

                    2件めは、保釈中の男が逃亡したというものでした。

                    裁判を連続して欠席しており、どうも海外に逃亡したのではないかとのことですが、驚くべきはその罪名。

                    加重逃走未遂罪が含まれているとのこと。

                    逮捕後に警察官に催涙スプレーをかけて逃走したという事案だそうです。

                    そんなことをした人物を保釈すれば、また逃げるのはある意味当たり前でしょう。

                    法の建前ではたしかに罪証隠滅のおそれなど刑訴法89条各号に該当しない限り、保釈は許されますが・・・

                     

                    保釈を積極的に認めるのであれば、このような事案は当然生じることとなります。

                    こういうことが起きないように裁判官による保釈の判断の精度をあげていくことも緊急の課題になりますが、そうはいっても限度はあります。

                    このような事態が生じることは「人質司法からの脱却」のためにやむを得ないことだと受け入れるのか、さもなくば運用を元に戻すのか、という難しい問題です。

                     

                     

                    2019.12.06 Friday

                    一審の裁判員裁判の判決破棄について

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                      一審の裁判員裁判の死刑判決が上訴で破棄された事案の報道が相次いでいます。

                      まず12月2日に、大阪の繁華街における通り魔事件で一審の裁判員裁判の判決が控訴審で破棄され、上告審でも控訴審の判断が維持されたという件が報道されました。

                      次いで、12月5日に、熊谷市で6人を殺害した強盗殺人事件で一審の裁判員裁判の判決が控訴審で破棄されました。

                      これらは裁判員裁判の判断では死刑とされながら、控訴審などではそれを覆して無期懲役としたものです。

                      いずれも、一般市民である裁判員の判断を軽視するのか、裁判員裁判の意義がなくなるのではないかなどという批判がされています。

                       

                      もっとも、この2件は死刑判決を破棄した理由において根本的に異なります。

                      大阪の通り魔事件は、端的に述べれば控訴審や上告審が裁判員の量刑判断が誤っているという判断をしたものです。

                      同様の判断は神戸市女児殺害事件などでもなされており、裁判員の量刑判断を軽視するのかという批判がなされてきました。

                       

                      対して、熊谷市の強盗殺人事件はこれらとは異なります。

                      この事件では責任能力が争いになっており、控訴審で死刑が破棄されたのは一審と責任能力の判断が異なって心神耗弱とされたからです。

                      一審では完全責任能力が認められたものの控訴審では心神耗弱であると認定されたのですが、刑法において心神耗弱と認定された場合は刑を減軽せねばならず(刑法39条2項)、死刑を減軽する場合の最高刑は無期懲役となるため(刑法68条1号)、そもそも死刑にすることができないのです。

                      つまり、大阪の通り魔事件や神戸市女児殺害事件は純粋な量刑判断として死刑が妥当かどうかの問題でしたが、熊谷市の強盗殺人事件では心神耗弱と認定した以上、死刑が選択できなかった事案なのです。

                       

                      熊谷市の強盗殺人事件の問題の本質は裁判員による責任能力の判断の問題といえます。

                      そもそも責任能力の判断は精神医学も絡む問題であって、裁判官を含む法律家にも判断が難しい問題です。

                      精神科医による鑑定がなされますし法定では精神科医の証人尋問が行われるのが常ですが、重大な事件では複数の精神科医が証言してそれぞれ異なる見解を述べる場合がよくあり、そのような場合の判断は非常に難しいものとなります。

                      量刑判断と異なり市民感覚の反映の問題と割り切ることも困難ではないでしょうか。

                       

                      今回の熊谷市の強盗殺人事件に関しては上告もなされると思いますが、最高裁の判断もどうなるかはまだ分かりません。

                      6名を殺害した強盗殺人事件という選び得る中での最高刑を選択することに躊躇がないと思われる事案ですから、その判断は上告審でも非常に難しいものとなることが予想されます。