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2018.12.19 Wednesday

スプレー缶の処理で爆発した場合、何の罪になる余地があるか?

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    ゴーン氏の話題が続きましたが、話題を変えまして、今回は札幌の爆発事件を取り上げようと思います。

    この事件は、現場の光景がショッキングなこともあり、大きく報道されています。

    私も以前近くに住んでいたため個人的に注目していました。

     

    原因については、室内でスプレー缶約120本のガスを噴射したところ、湯沸かし器のスイッチを入れた際に引火したのではないかと報道されています。

    仮にこれが事実だった場合、仕方がなかったとは言いづらいと思いますし、何らかの犯罪の成立を検討せざるを得ないでしょう。

    それでは、どのような犯罪が成立する可能性があるのでしょうか?

    今回の件は、非常にレアなケースであり何罪を検討すべきか悩ましいところです。

     

    まず、火事になっている点に着目すると、失火罪(刑法116条1項)や業務上失火罪・重過失失火罪(刑法117条の2)が成立する可能性があります。

    失火罪は過失で火事を起こしてしまった場合に成立するもので、今回も該当する可能性は高いと思います。

    「業務上」に該当するかどうかは難しい問題ですが、室内で120本のスプレーの中身を噴射したということであれば重過失が認められるように思いますし、重過失失火罪が成立する余地はあると思います。

     

    次に、ガスを室内に充満させた点に着目すると、ガス等漏出罪(刑法119条1項)という罪があります。

    かなりマイナーな犯罪です。

    ガス等漏出罪は、ガス等を漏出させるなどし、「人の生命、身体又は財産に危険を生じさせた」場合に成立します。

    家庭などに引かれている都市ガスをわざと漏らした場合が典型例ですが、スプレー缶の可燃ガスを部屋の中に漏らした場合に成立するのかについては法解釈上の検討の余地があります。

    スプレーか都市ガスかで結論が異なるのは均衡を欠くとも思いますから、個人的には成立する余地はあると思います。

     

    「危険を生じさせた」場合ですが、可燃性ガスの場合は主に濃度の問題となります。

    可燃性ガスは一定の濃度に達すると爆発する危険が生じるのですが、その濃度に達すれば「危険が生じた」となると思います。

    濃度を認定するには、漏出したガスの体積や部屋の容積、換気の状況などが問題となります。

    この点はしっかり計算する必要がありますが、今回の事件では実際に爆発してしまっているので、結論的には「危険を生じさせた」となる可能性はかなり高いと思います。

    なお、けが人が発生しているため、ガス等漏出罪が成立するならば、ガス等漏出致傷罪(刑法119条2項)が成立することとなるでしょう。

     

    爆発に着目すると、激発物破裂罪(刑法117条1項)という罪があります。

    これもかなりマイナーな犯罪ですが、都市ガスに引火させて爆発させた事例で成立した場合があるようです(山口地裁平成17年11月16日判決)。

    もっとも、今回は故意に破裂させたわけではないので、過失激発物破裂罪(刑法117条2項)か業務上過失激発物破裂罪・重過失激発物破裂罪(刑法117条の2)の問題でしょうか。

    ただし、これは前述の業務上過失失火罪・重過失失火罪と条文が同じですので、そちらが成立するならば検討の必要はないかもしれません。

     

    最後に、けが人が生じた点に着目すると、過失傷害罪(刑法209条1項)や業務上過失致傷罪・重過失致傷罪(刑法211条)の問題になります。

    これも今回の件が「業務上」といえるかは難しい問題ですが、重過失が認められるならば重過失致傷罪が成立する可能性が高いと思います(法定刑は同じ)。

     

    このように、今回検討しなければならないのは、失火罪(業務上や重過失の場合を含む。以下同様)、ガス等漏出罪、過失激発物破裂罪、過失致傷罪です(全て同時に成立するとは限らず、ある罪が成立する場合には他の罪が吸収される場合もあります。これも大きな検討課題です)。

    中でも一番重いのはガス等漏出致傷罪ですので、ひとまずはガス漏出罪の成否が焦点となるように思います。

     

    今回のような珍しい事件の場合、最初に何罪が成立する余地があるのか検討しなければなりません。

    判例や先例も経験も乏しい上に、マイナーな犯罪ですと解説書の記載も薄い場合が多いので、検討は容易ではありません。

    とはいえ間違いがあってはいけないので、警察のみならず、検察も弁護人も、裁判になれば裁判官も慎重かつ丁寧に検討しなければなりません。

    法律家である以上当然のことではありますが、責任は重大です。